きっと誰にも、忘れられない「友だち」がいたはず―『Kylooe』
きっと誰にも、忘れられない「友だち」がいたはず―『Kylooe』の夢みたいな世界をのぞいてみた。

「思春期って、ただでさえ難しいのに、大人にもなりきれなくて、子どもでもいられない、あの不安定さってなんなんだろう?」って、ふと考えたことない?
そんな気持ちに静かに寄り添ってくれるのが、この『Kylooe(キルー)』というコミック。
作者は香港のアーティスト、Little Thunder(リトル・サンダー)。その名前からは想像できないほど、彼女の描く世界は繊細で、幻想的で、でもどこかリアル。まるで夢の中にいるみたいな作品集なの。
物語の中心にいるのは、ごく普通の10代の女の子。学校をサボって、好きなバンドの新しいアルバムを買いに行く――そんな何気ない日常からすべてが始まるんだけど、そのジャケットに描かれていたのは、彼女の“昔の友だち”、あのキルーだった。
「え? キルーが現実に?」
そう、彼は架空の存在じゃなくて、実在する存在として彼女の前に戻ってくる。そして彼は、彼女を守るためなら、なんでもするの。
この作品は三つの短編で構成されていて、それぞれがぜんぜん違う話のようで、実は全部、"心"をめぐる物語。
たとえば、「不器用な女の子」と「人気者の男の子」のぎこちない距離感とか。
感情を表に出すことを禁止された世界で、何を選ぶかに悩む若者たちとか。
全部に共通しているのは、「人とつながること」や「自分の気持ちに正直になること」の難しさと、そこにある小さな勇気。
そして何より、この作品を特別なものにしているのが、Little Thunderのアート。
淡い色彩、流れるような線、どこか懐かしいような、それでいて異世界のような風景。
感情がそのまま色になってにじみ出てるみたいで、ページをめくるたびに、心がそっと揺れる。
思春期の迷いや、誰にも言えなかった気持ち、子どもの頃に見た幻のような何か…。
きっと誰にでも、そんな「キルー」が心の中にいるんじゃないかな。
この作品を読み終えたとき、あなたの中の“何か”がそっと目を覚ますかもしれないよ。